年金の繰下げ・繰上げはいくら?増減率の試算

社会保険 公開日 / 執筆 トムシ

老齢年金の繰下げ・繰上げで月額がいくら変わるかは、1か月あたりの増減率を令和8年度の金額に掛けて試算します。請求の届出手順はてつづきナビに任せ、この記事では増える額・減る額と、名目の累計が並ぶ年齢だけを扱います。原則の受け取り開始は65歳で、60歳からの繰上げは減額、66歳から75歳までの繰下げは増額です。その割合は受け取っているあいだ変わりません。

この記事では、日本年金機構が公表している増減率と、令和8年4月分からの老齢基礎年金の満額を使って、月額と累計額がどう変わるかを計算します。どちらを選ぶとよいかを勧めるものではありません。寿命、働く期間、税金や社会保険料で結果は変わります。制度と金額は、2026年10月22日に掲載元のページで確認しました。

受け取り開始は60歳から75歳のあいだで選べる

老齢基礎年金は、保険料を納めた期間と免除期間などを合わせて10年以上ある人が、65歳から受け取れます。ここから前にずらすか、後ろにずらすかで、月額の計算が変わります。

項目繰上げ65歳から受け取る繰下げ
請求できる時期60歳から65歳になるまで65歳66歳から75歳まで
1か月あたりの率0.4%減額(昭和37年4月2日以後生まれ)基準0.7%増額
いちばん変えた場合60歳0か月で24%減増減なし75歳で84%増
老齢基礎年金と老齢厚生年金原則として同時に請求同時が基本別々に繰り下げられる
割合の扱い請求後は生涯そのままそのまま請求した時点の割合が生涯続く

昭和37年4月1日以前に生まれた人の繰上げは、1か月あたり0.5%、60歳0か月で30%の減額です。昭和27年4月1日以前に生まれた人、または平成29年3月31日以前に受け取る権利が発生している人は、繰下げの上限が70歳で、増額は最大42%です。

特別支給の老齢厚生年金には繰下げがありません。受けられる年齢になったら、その年金は請求します。

65歳に達した日は、誕生日の前日です。4月1日生まれの人は、3月31日に65歳に達します。増減率の月数は、この「達した月」を基準に数えます。

出典:日本年金機構「年金の繰下げ受給」、日本年金機構「年金の繰上げ受給」、日本年金機構「老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額」(2026年10月22日確認)

増える割合・減る割合の早見表

日本年金機構の早見表では、誕生日の月に請求した場合の割合が次のとおりです。月の途中で請求すると、1か月単位で割合が変わります。細かい月数は、同機構の増減率のPDFに載っています。

請求時の年齢繰上げの減額率(昭和37年4月2日以後生まれ)繰下げの増額率
60歳24.0%対象外
61歳19.2%対象外
62歳14.4%対象外
63歳9.6%対象外
64歳4.8%対象外
65歳0%(基準)0%(基準)
66歳対象外8.4%
67歳対象外16.8%
68歳対象外25.2%
69歳対象外33.6%
70歳対象外42.0%
75歳対象外84.0%

計算式は次のとおりです。

繰下げの増額率 = 0.7% × 65歳に達した月から、繰下げの申出月の前月までの月数
繰上げの減額率 = 0.4% × 繰上げの請求月から、65歳に達する日の前月までの月数(昭和37年4月2日以後生まれ)

増額の対象は、老齢基礎年金(振替加算を除く)と老齢厚生年金(加給年金額を除く)です。加給年金額と振替加算は、繰り下げても増えません。

出典:日本年金機構「年金の繰下げ受給」、日本年金機構「年金の繰上げ受給」(2026年10月22日確認)

試算例1:老齢基礎年金が満額の人

令和8年4月分からの老齢基礎年金の満額は、昭和31年4月2日以後に生まれた人で月額70,608円です。20歳から60歳になるまでの40年間、保険料を納めた場合の金額です。昭和31年4月1日以前に生まれた人の満額は月額70,408円なので、この試算とは別の額になります。

70,608円に、上の増減率を掛け、円未満を四捨五入しました。年額は、その月額を12倍した金額です。実際の支払額は日本年金機構が端数を処理するため、1円単位では表と違うことがあります。年金額は毎年度改定されるので、将来の月額はこの表のままではありません。

受け取り開始増減率月額の目安年額の目安(月額×12)
60歳0か月24%減53,662円643,944円
65歳なし70,608円847,296円
70歳0か月42%増100,263円1,203,156円
75歳0か月84%増129,919円1,559,028円

65歳の月額と比べると、70歳開始は月29,655円多く、75歳開始は月59,311円多い計算です。一方で、60歳開始は月16,946円少なくなります。繰上げた年金は、請求した日の翌月分から支給されます。

出典:日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」(2026年10月22日確認)

試算例2:会社員として働いた人のモデル

日本年金機構は、夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額を、令和8年度は月額237,279円と公表しています。条件は、平均標準報酬(賞与を含む月額換算)45.5万円で40年間働いた人が受け取り始める年金です。

この237,279円から、老齢基礎年金の満額2人分(70,608円×2=141,216円)を引くと、96,063円になります。ここでは、この96,063円をモデルの本人の老齢厚生年金(報酬比例部分)とみなし、本人の老齢基礎年金70,608円と合わせます。公表資料には加給年金額を含むとは書かれていないため、加給は入れていません。96,063円は機構が単独で示している額ではなく、二つの公表額からの差し引きです。

基礎年金と厚生年金を同じ年齢で請求し、それぞれ円未満を四捨五入してから足しています。

受け取り開始老齢基礎年金老齢厚生年金本人の月額合計
60歳0か月53,662円73,008円126,670円
65歳70,608円96,063円166,671円
70歳0か月100,263円136,409円236,672円
75歳0か月129,919円176,756円306,675円

65歳開始の月額166,671円に対し、70歳開始は70,001円多く、75歳開始は140,004円多い計算です。配偶者自身の老齢基礎年金は、配偶者の請求時期で別に決まります。この表は本人の分だけです。

老齢基礎年金と老齢厚生年金は、別々に繰り下げることができます。たとえば基礎年金は65歳から受け取り、厚生年金だけ70歳まで待つ、という選び方もあります。繰上げは、原則として両方を同時に請求します。

名目の累計額は何歳あたりで並ぶか

月額が増えても、待ち続けた期間の分は受け取れません。令和8年度の老齢基礎年金満額(月70,608円)を、改定も税金もなしで受け取り続けた場合の累計を比べます。受け取り開始の年齢の月から数え、その年齢に達した月の累計は、開始したばかりなら0円としています。実際の繰上げは請求日の翌月分からなので、月の数え方は最大で1か月前後ずれることがあります。

年齢60歳開始65歳開始70歳開始75歳開始
75歳9,659,174円8,472,960円6,015,802円0円
80歳12,878,899円12,709,440円12,031,603円7,795,123円
85歳16,098,624円16,945,920円18,047,405円15,590,246円
90歳19,318,349円21,182,400円24,063,206円23,385,370円

同じ前提で、累計がそろう年齢は次のとおりです。

  • 60歳開始と65歳開始は、65歳から190か月後の80歳10か月で、どちらも13,415,520円になる
  • 70歳開始と65歳開始は、65歳から約202.9か月後、およそ81歳11か月で、約1,432万円になる
  • 75歳開始と65歳開始は、およそ86歳11か月で、約1,856万円になる

80歳の時点では、60歳から受け取った累計がまだいちばん多く、85歳の時点では70歳開始が上回っています。ここに書いた年齢は、この前提で名目の累計額がそろう計算上の地点です。物価や賃金に応じた年金額の改定、所得税・住民税、医療や介護の保険料、働いているあいだの支給停止は入っていません。待ちているあいだに亡くなった場合の扱いは、次の節で確認します。

働きながら受け取る場合:在職老齢年金

60歳以降も厚生年金に加入して働くと、賃金と老齢厚生年金の合計によっては、老齢厚生年金の一部または全部が止まります。令和8年4月からは、基準額が月51万円から月65万円に上がりました。この65万円は令和8年度の額で、毎年度、賃金の変動に応じて改定されます。老齢基礎年金は、この調整の対象ではありません。

用語は、日本年金機構の説明に合わせています。基本月額は、加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の年額を12で割った額です。総報酬月額相当額は、標準報酬月額に、標準賞与額の1年分を12で割った額を足したものです。

合計額令和8年度の支給月額
基本月額+総報酬月額相当額が65万円以下基本月額を全額支給
65万円を超える基本月額−(基本月額+総報酬月額相当額−65万円)÷2

日本年金機構の例は、基本月額10万円、総報酬月額相当額46万円(標準報酬月額36万円、標準賞与額120万円)です。合計は56万円で65万円以下なので、令和8年度は老齢厚生年金10万円が全額出ます。改正前の基準額51万円では、同じ条件で月7.5万円(2.5万円が停止)でした。

基準を超える場合の計算例として、基本月額10万円、総報酬月額相当額60万円と仮定します。この2つの金額は式の使い方を示すための仮の数字です。合計は70万円で、65万円を5万円超えます。支給月額は10万円−(10万円+60万円−65万円)÷2=7.5万円です。停止されるのは2.5万円で、老齢基礎年金は別です。

繰下げで増えるのは、在職老齢年金で止まっていない部分です。65歳以後に厚生年金へ加入していた期間や、70歳以後に適用事業所で働いていた期間に止まった額は、増額の対象になりません。止まった月がある人は、増額率に「平均支給率」を掛けて計算します。待っているあいだずっと全額止まっていた部分は、待った月数があっても増えない、という理解で足ります。詳しい式は機構のページにあります。

出典:日本年金機構「在職老齢年金制度が改正されました」、日本年金機構「年金の繰下げ受給」(2026年10月22日確認)

手続きの前に知っておきたい注意点

割合の表だけでは決まらない点を、機構の案内から整理します。

  • 繰上げたあとは、請求を取り消せません。減額された額を受け取り続けます。任意加入や保険料の追納もできなくなります
  • 繰上げの請求日以後は、事後重症などによる障害基礎年金・障害厚生年金を請求できません。治療中の病気がある人は、先に障害年金の扱いを確認します
  • 65歳になるまでのあいだ、雇用保険の基本手当や高年齢雇用継続給付が出ると、老齢厚生年金の一部または全部が止まることがあります。老齢基礎年金は止まりません。基本手当の金額のしくみは失業保険の給付日数で整理しています
  • 繰下げで待っているあいだは、加給年金額も振替加算も受け取れません。どちらも増額の対象外です
  • 65歳の誕生日の前日から66歳の誕生日の前日までのあいだに、障害給付や遺族給付を受け取る権利があると、繰下げの申出はできません。例外として、障害基礎年金または旧国民年金法の障害年金だけの人は、老齢厚生年金の繰下げができます
  • 66歳に達した日よりあと、待っているあいだに遺族年金などの権利ができると、その時点で増額率が固定されます。請求をさらに遅らせても割合は増えません
  • 繰下げの請求は、遺族が代わってできません。待っているあいだに亡くなった場合、未支給年金を請求できるときは、65歳時点の額でまとめて支払われます。請求時点から5年より前の分は、時効で受け取れません。繰下げで増えた部分は、遺族厚生年金には反映されません
  • 75歳に達した月を過ぎて請求しても、増額率は75歳までの分で止まります。増えた年金は75歳までさかのぼって支払われます。70歳よりあとに、65歳時点の額をさかのぼって受け取ることを選んだ場合は、請求の5年前に繰下げの申出があったものとみなす特例があります。対象や例外は機構のページで確認してください
  • 年金額が増えると、税金、年金生活者支援給付金、医療保険・介護保険の自己負担や保険料に影響することがあります。公的年金等は、収入から公的年金等控除を引いた額が雑所得になります。手取りの差は、月額の増減率そのものではありません

令和7年の法律改正で、令和10年3月31日時点において遺族厚生年金を受け取る権利があり、かつ65歳に達していない人(昭和38年4月2日以後生まれ)は、扱いが変わります。老齢厚生年金は、遺族厚生年金を請求していない場合に限り繰下げを請求できます。老齢基礎年金は、遺族厚生年金を請求していても繰下げを請求できます。

出典:日本年金機構「年金の繰下げ受給」、日本年金機構「年金の繰上げ受給」、国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」(2026年10月22日確認)

受け取り時期を考えるチェックリスト

  1. ねんきん定期便やねんきんネットで、65歳時点の見込額を確認したか
  2. 自分の生年月日が、繰上げ0.4%(昭和37年4月2日以後生まれ)と0.5%のどちらに当たるか
  3. 繰下げの上限が75歳か、70歳(昭和27年4月1日以前生まれなど)かを確認したか
  4. 繰上げを考える場合、減額が続き、取り消せず、障害年金の請求に影響することを確認したか
  5. 65歳までに雇用保険の基本手当を受ける予定がないか
  6. 加給年金の対象になる配偶者がいるか。繰下げで待つと、そのあいだは加給を受け取れない
  7. 65歳以降も厚生年金に加入して働く予定か。在職で止まった分は繰下げの増額対象にならない
  8. 受け取りを遅らせるあいだの生活費を、年金以外でまかなえるか。手元に置くお金の目安は生活防衛資金の試算を参考にしてください
  9. 保険料を納める段階の割引(前納)と、受け取り時期の増減は別の話だと整理できたか。納める側の金額は国民年金の前納で確認できます

まとめ

老齢年金の月額は、請求する年齢で決まります。昭和37年4月2日以後に生まれた人の繰上げは1か月あたり0.4%の減額で、60歳0か月なら24%減です。繰下げは1か月あたり0.7%の増額で、70歳なら42%増、75歳なら84%増です。令和8年度の老齢基礎年金満額70,608円で計算すると、65歳開始の月額に対し、70歳開始は100,263円、75歳開始は129,919円でした。

月額が増えても、待ち続けた期間は受け取れません。改定も税金もない前提の累計では、60歳開始と65歳開始が80歳10か月で並びました。働きながら受け取る人は、令和8年度は賃金と老齢厚生年金の合計が月65万円を超えると、超えた分の半分が老齢厚生年金から止まります。

受け取り時期は、見込額と、待つあいだの生活費、障害年金や雇用保険との関係を見たうえで決めます。個別の年金額と手続きは、ねんきんネット、年金事務所、日本年金機構のページで確認してください。

よくある質問

繰上げと繰下げの割合はいくらですか

昭和37年4月2日以後に生まれた人の繰上げは1か月あたり0.4%の減額です。繰下げは1か月あたり0.7%の増額で、70歳なら42%、75歳なら84%です。

月額が増えれば受け取り総額も増えますか

待ち続けた期間の分は受け取れません。記事は、改定も税金もなしの前提で、累計がそろう年齢を比べています。

働きながら受け取ると年金は止まりますか

賃金と老齢厚生年金の合計によっては、老齢厚生年金の一部または全部が止まります。老齢基礎年金はこの調整の対象ではありません。令和8年4月からの基準額は月65万円です。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の商品・サービスの購入や投資を勧めるものではありません。制度や料金は変更されることがあるため、最新情報は公式サイトでご確認ください。